センブンノサン[完]
「……あ! ヤバイ、忘れ物した!」
迷っていると、ふと千堂君が今使っているもポータブル充電器が目に入り、それをお店に置いてきてしまったことを思い出した。
「は? まじ? 先行くからな」
「うん、いいよ、ごめんねまた明日!」
「22時になる前にはよ行けアホ」
千堂君に呆れた目つきで見られ、私は慌ててお店へ引き返した。コンセントに差しっぱなしだったのでもし店長に見つかったら怒られる。
私はそろっと裏口から入り、更衣室の扉を開けて入口付近のコンセントにささっている充電器を取ってすぐに店から出た。
さっき通ったばかりの道を走っているのは、もしかしたら千堂君に追いつけるかもしれないというわずかな期待からだった。
「あ……」
さっき私が忘れ物を思い出した道に、人影を見つけた。
もしかして、待っていてくれたの?
しかし、恐る恐る彼に近寄りよく見ると、彼が一人きりじゃないことに気付いた。
「お前俺の女と寝たくせに、よくこんなところで1人のうのうと突っ立ってられたな」
……もしかして、吉川さんの彼氏……?
金髪に染めたパサパサの髪をワックスで揉み込み、タバコを口に咥え、服は着崩し、いかにもな不良の格好をした彼は、千堂君を鋭く睨みつけていた。
眉毛が一切無い彼の睨みは相当迫力があり、あ、ヤバイ、と本能的に思った私は警察に電話をしていた。
そうこうしているうちに、骨と肉がぶつかりあう生々しい音が聞こえた。
思わず悲鳴をあげそうになったが、ここで大声を出しても周りに人はいないし、千堂君は私を庇っていらぬ怪我をしてしまいそうだから、はやく警察が来ることだけを願った。
千堂君は、一切何も抵抗せずに殴られたようだった。
壁にもたれかかって、じっと殴った本人を見ている。その態度が気に食わなかったのか、もう一度殴る音が響いた。