センブンノサン[完]

千堂君の綺麗な顔が、歪んでいく。

やめて、やめて!

怖い、全身が震える。でも、助けたい。力になれる? なれるわけない。じゃあ見てるだけ? 千堂君はこの間のクレーマーの事件の時、すぐにすっ飛んできてくれた。

ぶるぶると震える足を何度も手で叩いて、ドキンドキンとうるさく鳴り続ける心臓に、黙れ、と心の中で叫んだ。

「……お前さあ、噂で聞いたけど虐待されてたんだって?」

……え?

突然恐怖すら切り裂くような衝撃的な発言がふってきて、頭の中が真っ白になった。

「俺とお前、遠おおい親戚同士らしいんだわ。お前ん家は父ちゃんが社長で金持ちで有名だが、暴力がやめられんらしいなあ? この胸元の火傷の跡、タバコでも押し付けられたんか?」

火傷の、痕……?

何、それ……知らないよ、そんなの。嘘だよね? 嘘だって言って、千堂君。

『俺もね、消えない火傷の痕あるんだ。昔根性焼きされてさあー、あれは熱かったなあ』

あれは……冗談なんかじゃ無かったの……?

「……お前、なんだその目つき」

突然金髪の彼の声色が殺気立ったものに変わり、どっと冷や汗が押し出る。

彼はずっと黙っている千堂君の胸倉を掴み直し、手に持っていた火のついたタバコを彼の首に近づけた。

その瞬間、千堂君の指に力が入り全身が強張ったのを見て、私は気づいたら駆け出していた。

「何してるんですか!? 大声出しますよ!」

突然間に入り込んだので、タバコの火が首に当たった。最近体験したばかりのチリっとした痛みが走り、一瞬痛さで歯を食いしばった。

「は? んだお前、一緒にぶっ飛ばされてーのか」

睨みをきかされても、私は千堂君の前からどかなかった。

内心は恐怖で食い尽くされていた。
でもどかなかった。
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