センブンノサン[完]
「こいつんとこの父親は人のこと見下すクズだ。金のない奴はゴミみたいな目で見やがる。そんな奴の子供であるこいつもクズの血が流れてんだよ」
「玉野、どけ……本当に」
ずっと口を閉ざしていた千堂君が、背後から私の肩を掴んだ。
「君たち! 何してるんだ!」
と、その時、さっき連絡した警察がやっと到着した。遅いよ、なんなの。
金髪の彼は舌打ちをしてからすぐに逃げ、警察はそれを追った。幸い進学校の制服をかっちりと着て口から僅かに血を流していた千堂君を見た警察は、何を言わずとも被害者であると理解してくれたようだった。
とりあえず今は加害者を追うために警察はバタバタしていて、私達は待機というカタチになった。
全身の力が抜けて、私は思わずその場に崩れ落ちた。
しかしそれを、すぐに千堂君が支えてくれた。
千堂君は、今まで見たことないくらい戸惑った表情をしている。
いつもの、先に答えをもう知っているような、余裕のある千堂君じゃない。
「お前、首……」
丸く赤くなった箇所を見て、彼は自分のことのように痛そうに顔を歪める。
バカじゃないの、今自分の顔鏡で見てみなよ、右頬めっちゃ腫れてるよ、血の臭いするし、そっちの方が何倍も痛そうだよ。
千堂君は、自分より人の痛みに弱いのだろうか?
こんなの全然大丈夫だよ、そう言おうとしたけど、言えなかった。
「なんで俺のせいで、お前が傷つけられるんだよ……」
抑揚のない声で、ぽつりと呟いてから、千堂君は私にキスをしたから。
さっきのタバコの火なんかより、よっぽど熱かった。