センブンノサン[完]
「パンツ丸見えだぞ」
そこには、不機嫌そうな顔をした千堂君がいた。
2週間ぶりに彼と目が合って、私はかなり動揺していた。
けれど、彼は平然と私の隣に腰をかけ、同じようにカーペットの上に直に座った。
この図書館からはグラウンドで練習をしている生徒がよく見える。
窓から見えないギリギリの高さで座っている私達。外から聞こえてくる掛け声だけが、図書館内に唯一ある音だ。
「……なに部活サボってんの」
「いや、俺らもうとっくに引退してるから。いつもやってんのは朝練じゃなくてただストレス発散にバスケしてるだけだよ」
……へえ、そうなんだ。いや、よく考えればそうか。
ずっと文化部の私には、スポーツでストレスを発散するという精神がいまいちよく分からない。
「なんで図書館なんかいるの」
「玉野がいたから」
「なんで隣座るの」
「玉野がいたから」
……本当に、なんなんだろう、この人。
ずっと二週間無視し続けて、突然こんなことを言うなんて、完全に気分屋通り越してるよ。もしこれが駆け引きなら、私は駆け引きなんて大嫌いだって叫ぶよ。本当にふざけてる、この人。
「ねえ、聞いていい?」
「……なあに、とりあえず言ってみ」
「なんでキスしたの?」
「あー、そっちきたか」
千堂君は額に拳(こぶし)を当てて、うーん、と考えるそぶりを見せた。じゃあ他に何を聞くと思ってたんだよ。
「なんだろう……例えば自分を庇って弱った小リスを見たらキスしたくなるじゃん、それと一緒」
「ごめんそんなファンタジーな体験したことないから分からない」
「なあもっと他の話にしねえ?」