センブンノサン[完]
「もう充分知ったから、俺に興味無くなっただろ」
「それは、もう関わるなって言ってるの……?」
そう震えた声で呟くと、彼は視線を私から逸らしてそうだよ、と答えた。
どうして? 私が踏み込みすぎたから? いや、でも勝手に話したのはそっちだし。そもそもあの金髪野郎が元凶だし。
もう関わるなって、それは、本音を知られた人がそばにいると困るってこと?
いや、でも、そもそも私はこの人にもう関わりたくなかったわけで……そう思うとこの状況は好都合なわけで……それなのに、胸はズキズキと痛むわけで。
なに、これ、もう、ていうかこの人本当面倒くさい!
色々考えを巡らせた結果、答えはシンプルに怒りに変わった。私は同じように立ち上がって、千堂君の胸を叩いた。
理不尽で勝手な彼を責め立てる言葉が、泉のように溢れ出した。
「なんなの、何考えてるの、こんなに話しておいて……ねえ、小説読んだら3秒後に捨てる人なんている?! その話忘れられる人なんている?! いないでしょ、そんな人!」
「忘れろとも捨てろとも言ってない。関わるな、もう読むなって言ったんだ。俺がお前に全部話したのは、ここ二週間ずっと何か聞きたそうな顔をしていたからだよ。一応助けてもらった訳だし、そんな大した過去でもないし、これを話して玉野がスッキリするならスッキリさせてあげることがせめてもの恩返しかと思って話しただけだ」
その言葉の中に、本音はいくつあるの?
ねえ、千堂君、いい加減ちゃんと私を瞳に映してよ。
ねえ、胸が痛いよ。熱いよ。焦げそうだよ。
あなたに壁を作られる度に、私の心は弱っていくよ。どうしてかな。
「お前は、正義感が強くて優しい。本当にできた人間だ。でも、その正義感だけを武器にあんな風に俺を助けたりするな。迷惑だ」
「何を……言ってるの……?」
「あの金髪野郎には制服着てない時に倍返ししに行ったし、お前が心配することなんて一つももうない」
この人は、ただの正義感で私があんなに怖い思いをして助けに行ったと思っているの?
ショックで、さっきまでの勢いを全てなくした。
違うよ、千堂君、私は、そんな誰にでも抱けるような安っぽい気持ちであなたを守ったわけじゃない。
あの時、あなたの指先が震えていたの見たら、あなたの弱さを初めて知ったら、たまらなく魂が震えたから。
この人を守ってあげなきゃって、魂が叫んだから。