センブンノサン[完]

「……それとも、あれか。同情心が加速して、俺のことが好きになったとか、そんなつまらないことになってんのか」

ショックで動けない私を壁に追い詰めて、彼は瞳を暗くさせた。

私のネクタイを彼の指がほどいて、ネクタイが下に落ち、すぐにボタンも外された。

「……ならそこもスッキリさせて、終わろうぜ」

露わになった胸元を見て、まだわずかに治っていない火傷の痕に、彼は綺麗な手を重ねる。そして、首にあるタバコの火傷の痕に唇を這わせた。
一生懸命に彼を引き剥がそうとするのに、その柔らかい感触のせいで脳が鈍って力が入らない。

「千堂くっ……やめて」

首にひとしきりキスをした後、彼はまだすこし赤みのある胸元にキスを降らせた。吸い付くようなキスに熱が上がって、頭がおかしくなる。
胸元の火傷はまだ完全に治っていないので、時折チリっと痛みが走る。

「や、やめて……」

でも、それ以上に、心が痛い。


私の本音は、ひとかけらもこの人に伝わっていないんだ。


切なくて、切なくて、胸が千切れる。


気づいたら、ぽろっと涙がこぼれ落ちていた。

しずくが胸を伝って、それに気づいた彼が顔を上げた。

目を見開き驚いている彼に、私は絞り出すような声でやっと思いを伝えた。

「私は、ただ、あの時、千堂君を助けた時、生まれて初めて自分の性別が女だったことを悔しく思った……それだけだよ……っ」

「玉野……?」

「もし、私がムキムキの男だったら、あんなやつ、殴ってやれたのにって……それが悔しくて仕方なかった……」

「待てよ、玉野……そんな、そんなことお前は思わなくていい……俺はただもうお前をこれ以上」

「私は本当に、それだけだったのに……っ」

あなたを守れなかったことが悔しい。

ただ、それだけだったのに。

伝えるタイミングが遅かったのかな。笑っちゃうよ、千堂君は本音が見えないとか言っといて、まさか自分の本音を伝え忘れていたなんて。

自分の性別を悔やむほど守りたいと思える人、それはあなただよ、なんて、もうほぼ告白じゃないか。馬鹿らしい。言葉にしたら気づいたなんて、本当に馬鹿らしい。
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