センブンノサン[完]
「玉野、俺は、やってねーからな」
「分かったよ、もういいよそれは」
「よくない」
子供みたいに言うものだから、思わずおかしくて笑ってしまった。
あんなにシリアスな突き離し方をしたのに、こんな風に自然と話してしまってる自分は本当にどうかと思うが、病人には優しくしてしまう……。
「やってないなら否定すればよかったのに、馬鹿なの」
「否定すんの、基本だりぃじゃん……」
「そういうことしてるからもっと面倒臭いことに巻き込まれるんだよ!」
「はは、確かに……」
もっともな正論を突きつけると、彼は弱々しく私の手を握る。
「適当してたら、玉野を巻き込んだ……こんなに強烈な罪悪感に悩まされたのは、初めてだった……だから離れようとしたのに……もう俺といて危険な目に遭わせないように……なのにお前、ズルいよ」
……咳き込みながら、たどたどしく本音を話す彼。
その言葉、そっくりそのまま返すよ、ズルいのはそっちだよ、今更そんなこと言って、そんな拗ねた子供みたいな声で。
どれだけ私の心を掻きみだせば気が済むの?
あなたは一体私にどうして欲しいの?
「俺さー、本音言わずに生きてたらどれが本当の気持ちなのか分からなくなってきてさ、だんだん」
千堂君、教えてよ、まずは1000分の3だけでもいいから。
「でも、図書館で、玉野が泣いてるの見たら、罪悪感で本当に死にたくなって、言葉っていうのがどれだけ人の心を大きく動かすものなのか、ようやく分かったんだ」
私に見せてよ、本当のあなたを。
「春休みも、ずっと玉野のことで頭がいっぱいで、どうにかなりそうだった。どうしたらいいのこれ、俺もう、無理だよ。お前とただの同級生でしかいられないとか、無理」
――たぶんね、私、あなたの心の火傷の痕を、完全には治せないかもしれないけど、痛みを緩和することはできると思うの。
こうやってさ、手を繋いだり、ただ隣に座っていたり、あなたの本当の言葉をゆっくり聞いたり。
ねえ、本当のことを言っても仕方ないとあなたは言ってたけど、そんなに悪い気もしないでしょう? 自分を知ってもらうということは。
できればその相手は、
あなたを深く知る相手は、
私であってほしい。