センブンノサン[完]

「うーっ、もう、本当嫌いーっ」

「待てよ、お前に言われるとナチュラルに傷つく」

「嫌い、嫌いもう、本当嫌いっ……」

なんて厄介な男に惚れてしまったんだろう。千堂君の胸を叩きながら、私は嫌いと何度も言った。

最初はただただ傷ついていた千堂君だけど、パシッと私の腕を掴んで、私の顔を覗き込んできた。

「それ嘘でしょ?」

額がくっついて、千堂君の熱が直に伝わってくる。

「本当のこと教えてよ」

……ズルいよ、そんな言い方。

抗える訳、ないじゃないか。

逃げることのできなくなった私は、か細い声で思いを言葉にした。

「好き……っ」

その二文字を聞くと、彼は、本当に幸せそうに笑ってから、泣きたくなるほど優しいキスを降らした。

何度も何度も角度を変えて、時折唇を離して笑ってから、またキスをする。

キスの途中で、なんであの時我慢せずにキスしちゃったんだろう、と嘆いていたのがおかしかった。

キスをして、あなたに触れたら、ふよふよと不安定だった恋心が、手で掴めそうなくらい確かなものになった。


あなたが好きだ。


「……100%風邪移るな」

唇を離して彼が苦笑を漏らしたので、私も確かに、と思い笑った。

「今は笑ってられるけど、明日とかになったら俺のこと憎くて仕方なくなると思うよ」

「ハハ、そしたら御見舞い来てもらって奴隷のように扱おうかなあ」

「いやそれで気が済むならいいけど」

風邪は嫌だけど、でもね、なぜかそんなに悪い気はしない。

あなたと苦しみを分かち合うのは、なぜかそんなに悪い気はしないの。

そんなこと言ったら、千堂君はバカだろ、と言って私の頭を叩くだろう。

人一倍、自分以外の人の痛みに弱い優しいあなただから。

……私は、シャツの上から千堂君の胸元にある火傷の痕にそっとキスをした。
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