センブンノサン[完]
〝悪いオトコ〟
だけど私はたったひとつの出来事で今までのことを帳消しにするようなやつではない。やつの容姿に騙される女でもない。そう言い聞かせながら登校した。
季節は冬で、二年生ももうあと少しで終わる。
来年は受験があるので成績別に大きなクラス替えがあるし、受験に備えてそろそろバイトもやめるつもりだ。
そうすればやっと、千堂君と関わらずに済むのだ。
そんなことをぼんやり考えながら、今日も同じ窓際の席に荷物を置いた。
いつもちょうどいい電車がない私は、不本意ながら一番乗りをしてしまう。
朝練のある人だけが無造作にカバンを置いていて、私の隣の席にもリュックだけが置いてある。なんだか可愛らしい恐竜のキーホルダーがついていて、思わず笑ってしまった。
そうこうしていると、何やら騒がしい声が廊下から聞こえてきた。
「千堂、吉川みくとヤったってマジかよ、噂んなってんぜ」
え。
生々しいいかにも男同士らしい会話に、私は思わず硬直した。
まだそんな経験はおろか、3姉妹の長女である私には全く免疫のない話であった。
「もうそんな噂流れてんだ、ハハ、やっぱりあの女口軽いな」
「どうだったんだよ、ていうか吉川他校に彼氏いるって聞いたぜ?」
「知るかよ、あっちが誘ってきたんじゃ。あっちの責任だろ」
「言うねえ、光基」
……全く私には無縁の話に、なんだか嫌な汗が噴き出てきた。
千堂君は、もうそういうことをしているんだ……。
なんだかそのことが物凄くショックで、やけに千堂君が遠くに感じた。
この話、聞かれてたって知られたら嫌だな……お願いだから教室に入ってこないで欲しい。
そんな風に思っていたけど、そんな願いが叶うはずもなく教室のドアは開いてしまった(因みにさっき話していた男子は隣のクラスだったので、入ってきたのは千堂君一人だけだ)。
私は咄嗟にイヤホンをつけて、いかにも何も聞いていない風を装った。