センブンノサン[完]
「……なあ、火傷、どうだった? 痕大丈夫そうか?」
つつっと、千堂君の指が肩を撫でたので、私は払うように肩を揺らす。
けれど、千堂君は手を離さないどころか、私のうなじを細く綺麗な薬指と中指の腹でするっと撫でた。
「お前は拒否する口もないんか、口きけないんか」
「やめて、触らないで!」
「なんだ、喋れんくなったんかと思ったわ」
「なんか変な触り方するから鳥肌立ったんですけど!」
うなじをおさえて抗議をすると、何がおかしいのか千堂君はハハッと笑った。
本当になんなんだ、この人は。どうしてこんなに私に突っかかってくるのだ。私は関わりたくないのに。
「昨日、俺が鍋運んでれば良かったなって、一晩中後悔してたよ。男なら火傷なんでどうってことないしな」
どうしてこんなことをサラッと言ってのけるのだろう。この人は一体なんのためにこんなに好感度のあがるような言葉を私に降らしているのだろうか。
この人の考えていることは、なに?
どうしてこの人の思考が気になるの?
どうしてこの人のことは全く読めないの?
どうしてこの人は嘘と冗談で壁を作っているの?
この人の本音は、どこ?
「ねえ、千堂君……」
「あっ、いたー! 光基、探したんだよ」
彼の名を呼びかけたその時、教室のドアが開いて噂の巨乳美女吉川みくさんが入ってきた。千堂君は瞬時に手を私から離した。
「今日朝練終わったらみくの所来てって言ったじゃん」
私を一度も視界に入れずに彼女は千堂君の腕に絡む。一度もこちらを見ない、という行為は宣戦布告の意味としては睨むという行為より効果がある気がする。