センブンノサン[完]
「来てとは言われたけど行くとは言ってないだろうが」
「じゃあ今来て」
「ふざけんな、後腐れなくって言ったのはそっちだし、噂も流さないって約束した。どっちも破ったお前と話すことなんて無いわ」
目の前で繰り広げられる痴話喧嘩。空気がまず過ぎて、私は耐え切れずに視線を窓の外に移した。しかし、窓にはハッキリと吉川さんの怒った顔が移っている。
「だって光基が思わせぶりなことするからいけないんだよ! デートOKしてくれたり」
「お前がしつこいからだ。お前の彼氏にぼこられるのは目に見えてるから、もう面倒いし今ここで彼氏に言わん? 私浮気しちゃいましたって。したら自ら殴られに行ってやるよ」
「なんなんっ」
「それはこっちのセリフだわー」
彼等の喧嘩がヒートアップしていくうちに、徐々に学校につき始めた生徒の中から野次馬ができ始めていた。
それにやっと気づいた吉川さんは顔を真っ赤にして教室から出て行った。
千堂君はだるそうにあくびをかまして、少し寝る、と言って机に突っ伏した。
悪い男、っていうのは、こういう人のことを言うんだろう。
関わりたくない。関わる必要もない。
それなのに、どうして、彼が人との間に隔てている壁が、気になってしまうんだろう。
「ねえ千堂君、せんみつって言葉知ってる?」
寝ている彼に、私はポツリと呟く。
この間本を読んでたらたまたま知ったんだけど、千のうち本当のことは三つしか言わない――つまり“嘘つき”のことを“せんみつ”って言うらしいよ。
あなたは、嘘に紛れて私に本当のことをちゃんと言ってくれたことある?
もしあるならば、それに気付いてあげたい。