あなたの一番大切な人（１）
【２章】深夜ー酒場
　馬にまたがり、ゆっくりと歩を進めたら、一度降りやんだ雪が再び舞いだした。

　形がはっきりした小さな雪の結晶がひらりひらりと目の前を落ちていった。

　国王は、その様子に酔いしれ、思わず手を伸ばした。

　雪は革手袋の上に落ちると、さらりとした水に変わった。

　舞い散る雪の姿は、例年見ることができる光景であるが、命はかなし風物詩であるため、国王は雪が降るのを毎年楽しみにしていた。

　視界の悪いカーブ道を馬は慎重にゆっくりと進み、煉瓦で舗装された街部に到着した。

　どこからか食欲を掻き立てる良い香りが漂ってきた。

　近くの大衆食堂からのものだろうか。

　先ほど城で、比べものにならないほど豪勢な食事をとってきたにもかかわらず、その香りはまるで1週間もの間、何も食していないような錯覚を与えた。

　馬の蹄が響く中、貴族が頻繁に出入りする館の前に到着した。
　馬から降り、そばの街灯に手綱を括り付けた。

　愛馬は主人が離れるのが寂しいらしく、ブルブルと嘶いた。

　「ここで、俺が帰るのをおとなしくまつんだ。いいな、絶対にいいこにしてるんだ。」

　長年の付き合いであるからか、その愛馬は人の言葉を理解しているかのようにふるまうときがあった。

　彼は、愛馬を一度優しくなでてから、そこを離れた。

　　

　
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