あなたの一番大切な人(1)
時計に手をやり、短く呪文を唱えると再び時計の針が動き出した。
すると静止していた風が戻り、廊下から賑やかな貴婦人の会話が聞こえてきた。
近く起こるであろう戦争に関する話題に、心の中で喜びながら彼は時計を元の位置に戻し、窓から外を眺めた。
「聞こえる?ミーチェ。」
窓から聞こえる虫の音に耳を澄ませながら彼はベッドを一瞥した。
名前を呼ばれた女性はベッドの上で身体を震せたが、月明かりに照らされた悪魔の顔に身が竦み、思うように動けない。
彼はゆっくりとベッドに歩み寄った。
「こ、こないで…」
彼女の頬に涙が伝うが、彼は自分の欲望のために己を曲げるつもりはなかった。
ベッドに乗り、彼女の上にまたがることで、恐怖におののく彼女の姿に新鮮味を感じた。
「彼にもいつもそんな表情をするのか。」
正直彼女に対して恋愛感情など抱いたこともなかったが、いつも閉められた扉の向こうで何が行われていたか気付かなかったわけではない。
普段強気な彼女のチャームポイントともいえる長くしなやかな金髪を、指に巻き付けて匂いを嗅ぐ。
甘く優雅なその香りは、彼女が生まれながらに持つ気品を示してさえもいた。
「も、もうやめて…」
抵抗できない身体ではあるが、取り返しのつかないことが迫りつつあることを、彼女はいち早く感づいていた。
なぜ、こんなことに巻き込まれてしまったのか。
なぜ、自分が選ばれてしまったのか。
なぜ、彼の顔ばかり思い出すのか。
今この場にいない城主の姿をどうしても探してしまう。
すると静止していた風が戻り、廊下から賑やかな貴婦人の会話が聞こえてきた。
近く起こるであろう戦争に関する話題に、心の中で喜びながら彼は時計を元の位置に戻し、窓から外を眺めた。
「聞こえる?ミーチェ。」
窓から聞こえる虫の音に耳を澄ませながら彼はベッドを一瞥した。
名前を呼ばれた女性はベッドの上で身体を震せたが、月明かりに照らされた悪魔の顔に身が竦み、思うように動けない。
彼はゆっくりとベッドに歩み寄った。
「こ、こないで…」
彼女の頬に涙が伝うが、彼は自分の欲望のために己を曲げるつもりはなかった。
ベッドに乗り、彼女の上にまたがることで、恐怖におののく彼女の姿に新鮮味を感じた。
「彼にもいつもそんな表情をするのか。」
正直彼女に対して恋愛感情など抱いたこともなかったが、いつも閉められた扉の向こうで何が行われていたか気付かなかったわけではない。
普段強気な彼女のチャームポイントともいえる長くしなやかな金髪を、指に巻き付けて匂いを嗅ぐ。
甘く優雅なその香りは、彼女が生まれながらに持つ気品を示してさえもいた。
「も、もうやめて…」
抵抗できない身体ではあるが、取り返しのつかないことが迫りつつあることを、彼女はいち早く感づいていた。
なぜ、こんなことに巻き込まれてしまったのか。
なぜ、自分が選ばれてしまったのか。
なぜ、彼の顔ばかり思い出すのか。
今この場にいない城主の姿をどうしても探してしまう。