あなたの一番大切な人(1)
 しかし、乱闘を目の前にした彼は興奮状態にあり、また酒による酔いもあって、国王は不覚にも男の動作に気が付かなかった。

 そのまま店のトイレで用を済ませようとフラフラした足取りで奥まで歩くと、近場から独特の音とあえぎ声が聞こえてきた。

 喧噪にかき消されていたが、どこかでお楽しみの最中のようだった。 

 このむさくるしい店に女がいたこと自体驚きだが、その女は意に沿わぬ相手との行為であったようだ。

 女性を貪る男は興奮した鼻息をもらし、自分のものを自慢するかのように力強く打ち付けていた。
 
 女性の意識もそれほどはっきりしていないようで、自分が置かれている状況が認識できているかも疑わしかった。

 彼は、用を足しながらその状況に反吐が出そうだった。

 彼自身、そういう夜ごとは大歓迎であったが、女性の同意があって初めて成立するものだという考え方の持ち主だった。

 だから、今まさにどこからか聞こえる音には抵抗を続ける女の叫びが少なからず含まれており、そういうこともあってか非常に苛立ちを感じた。

 その相手を見つけ出し、男の顔を拳で思いっきり殴りつけて、自分が献身的な女性の上にまたがり、その男と比較させたい。

 そんな欲求に一瞬駆られたが、気だるさがそれを妨げた。


 
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