あなたの一番大切な人(1)
 こうなったら自分の身分をこの際明らかにしようか。

 この純粋で素朴な兵士は知らないだろう。忍びで街に繰り出したこの国の王に、まさか自分が汚い手で触れているということを。
 のちに恐れおののく憲兵の姿を想像したら少しにやけてきたが、あっさりと酔いの冷めるできごとが生じた。

 彼の右ポケットから身に覚えのない、しかし先ほど憲兵が持っていた小瓶が出てきたのだ。

 憲兵の手にある小瓶に彼も凝視し、状況を理解しようと冷静な頭を回転させた。

 しかし、どう考えてもその小瓶を手渡された記憶も、ポケットにしまった記憶もない。

 意味がわからず頭が真っ白になっているところ、憲兵二人に羽交い絞めにされてすぐさま外に出された。

 彼は店の外で大きな声でわめき散らし、状況を打破しようと試みたが、憲兵二人に取り押さえられ再び地面に抑えつけられた。

 「はなせ、俺を誰だと思ってるんだ!この国の王だぞ!」

 憲兵二人は冗談だと決めつけ高笑いをし、地面に寝そべった男を頭のいかれた野郎と決めつけた。

 抵抗する国王を無理やり縛りつけ、わめき散らすのを黙らせるために銃剣で殴った。

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