あなたの一番大切な人(1)
 もやもやとした霧の中から何かが浮き出てきた。

 薄く形の良い耳にぶら下がった、きれいな金色の細いイヤリングが印象に残っている。

 ミディアム丈のメッシュがかった栗色がまぶたにわずかにかかり、冷ややかな青い瞳を引き立てていた。

 それが誰かを思い出せずに悩んでいたが、ふと自分の長い金色の髪が乱れていることに気づき、前髪を細い指で整えた。

 その時ふと首筋に触れ、その瞬間に酒場で拘束された一時間あまりのことをすべて鮮明に思い出した。

 昨晩、酒場である物を手に入れる交換条件として、奥の倉庫である男に奉仕するよう強制されたことを。

 唇が首筋をはいずった感覚をいきなり思い出し、自分が先ほどみた夢が昨夜のことだったと理解した。

 赤く熟れた唇をぎゅっと噛みしめ、小さくつばをはいた。

 「ちくしょお...ちくしょお...」

 またも翡翠の輝きのある瞳にうっすらと涙がたまった。

 自分が女として生まれてきて、これほどみじめに感じることはなかった。

 卑劣な者どもから、常に性的ないやらしい視線を向けられ、愛玩としてもてあそばれる屈辱を人一倍理解していたからだ。

 -この容姿がなければ、それほどでもなかったかもしれない-

 人並み程度の美しさであればそれほど目立つこともなかっただろうが、彼女の美貌は年を増すごとに彼女の意思に反し、気づけば女性としてはうらやむぐらいのふくよかな肉付きに変貌していた。
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