あなたの一番大切な人(1)
しばらくすると、廊下に足音が響いた。
鉄の飾りが煉瓦とぶつかり、カシャンカシャンと派手な音を立てている。
足音から複数の人間が歩いていることを察し、彼女は自分の涙をぬぐった。
整えたはずの髪をくしゃくしゃにし、鉄格子とは逆の方にむき、少しうつむいた。
そこで、彼女は自分の目を疑った。長く垂れた金色の髪の間から、こげ茶色のブーツが見えたのだ。
思わず顔を上げると、目の前には小さな簡易ベッドがあり、その上に白い毛布にくるまって胡坐をかいて座っている男の姿があった。
その男は先ほど思い出せなかったイヤリングの持ち主で、彼はなかなか面白そうに自分の方をみつめているではないか。
彼の顔を真正面から見た瞬間、昨夜の霧がすべて晴れ、何が起こったかを悟った。
彼は手をあごにあてて、私を上から下まで観察していたのだが、それ以前に自分が寝起きでぼんやりとしていた姿をすべて黙って見られていたかと思うと、顔から火がでるような思いであった。
彼は新たな私の反応にキョトンとし、珍しいものを見るかのようにしげしげと見つめた。
「な…んでおまえが」
私はどこかに声を忘れてしまったかのように、ひどく掠れた声でようやく一言つぶやいた。
「まだ『おまえ』というのか、このど阿呆が。」
しっかりと両手で毛布を抱きしめながら、彼は一段高いところから私を蔑んだ。
彼の深海のように濃い青の瞳が意地悪く細められた。
その様子に思わず耐え切れなくなり、私は急いで鉄格子の方に向き直り、きつく目を閉じた。
鉄の飾りが煉瓦とぶつかり、カシャンカシャンと派手な音を立てている。
足音から複数の人間が歩いていることを察し、彼女は自分の涙をぬぐった。
整えたはずの髪をくしゃくしゃにし、鉄格子とは逆の方にむき、少しうつむいた。
そこで、彼女は自分の目を疑った。長く垂れた金色の髪の間から、こげ茶色のブーツが見えたのだ。
思わず顔を上げると、目の前には小さな簡易ベッドがあり、その上に白い毛布にくるまって胡坐をかいて座っている男の姿があった。
その男は先ほど思い出せなかったイヤリングの持ち主で、彼はなかなか面白そうに自分の方をみつめているではないか。
彼の顔を真正面から見た瞬間、昨夜の霧がすべて晴れ、何が起こったかを悟った。
彼は手をあごにあてて、私を上から下まで観察していたのだが、それ以前に自分が寝起きでぼんやりとしていた姿をすべて黙って見られていたかと思うと、顔から火がでるような思いであった。
彼は新たな私の反応にキョトンとし、珍しいものを見るかのようにしげしげと見つめた。
「な…んでおまえが」
私はどこかに声を忘れてしまったかのように、ひどく掠れた声でようやく一言つぶやいた。
「まだ『おまえ』というのか、このど阿呆が。」
しっかりと両手で毛布を抱きしめながら、彼は一段高いところから私を蔑んだ。
彼の深海のように濃い青の瞳が意地悪く細められた。
その様子に思わず耐え切れなくなり、私は急いで鉄格子の方に向き直り、きつく目を閉じた。