あなたの一番大切な人(1)
 昨日の夜更け、彼がただの一般人だと思い込んだ私は酒場から助け出したのだが、そのあと追手の言葉で彼を国王だと知り、我を忘れて乱闘騒ぎを起こしてしまったのだ。

 無謀にもこの国の最高権力者に切りかかり、返り討ちにあったのだった。

 私は、国王への反逆罪でこの独房にぶち込まれてしまったと、このとき初めて認識した。

 私があれこれ思案していると、外の足音が止まり鍵が開く音がした。

 目を開けると、大柄な男と小柄な男の二人が立っていた。

 どちらも昨日の現場にいたのを覚えていた。

 「ったく、ちったあ反省したか?ジェスロ。」

 大柄な男がため息交じりに口を開いた。

 明らかにこの国の兵士であるにも関わらず、国王に対するぞんざいなものの言い方に強い印象を覚えた。

 言われた男の方は、きょとんとした表情のまま口を開いた。

 「だから、俺は麻薬なんてもらった記憶ねえよ。あれは勝手にコートに入ってたんだってば。何回いったらわかるんだ。」

 男はそのまま独房に入りこみ、ベッドの上にくつろぐ男の胸ぐらを掴みあげ、唾を飛ばして怒鳴った。

 「何回いったらわかるんだ、はこっちのセリフや。毎日毎日自由気ままに城を抜け出しやがって。おとなしうしとけ、いってるのがわからんのか。」

 大柄な男は日焼けした肌と、年季の入った皺が特徴的で、明らかにここにいる誰よりも年配だった。
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