あなたの一番大切な人(1)
 その様子を見て、大柄な男が国王の胸元から手を放し、苛立った様子でこちらに近づいてきた。

 -次は、わたしか-

 殺気立つ相手に警戒し、顔を引き締めた。
 
 彼は、赤いマントの男を押しのけると私の後ろの鉄格子を掴んだ。

 「おめえさん…」

 鋭い男の視線がぶつかり、保身のために腰に手を伸ばしたが、そこにはあるはずの愛剣が収まっていなかった。

 どうやら牢獄に入れられた際に、押収されたらしい。

 自分を守る手立てがないことに焦りを感じ、私は奥歯を強く噛みしめて、相手の攻撃を見極めようと目を見開いていた。

 しかし、その相手の口から発せられた言葉は意外なものだった。

 「すまなんや。こんなやつと同じところに一夜も放り込んで。昨日の騒ぎで独房が足りてへんかったんや。なんかやらしいこととかされへんかったか。」

 男は変わらず鋭い眼をしていたが、私の状態を観察して何事もなかったと理解したあと、スッと手を離した。
 
 しかし彼が離れた後も彼の威圧からくる脅威の前に、私は震える心臓を抑えるのがやっとであった。

 彼はゆったりと大きな足取りで、再びベッドの男に近づき、その首根っこをおさえて持ち上げた。

 「反省したなら、自室に戻れ。それから二度と部屋から出てくんな。」

 軽々と独房の外に国王を運び出したら、彼はいきなり錠前を閉めた。

 
 
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