友情よりも愛情を。
「千佳…」
低い声で名前を呼ばれただけ。
憲次の指先が、あたしの顔に触れている髪をそっと退けるだけ。
なのに、まるで金縛りにあったみたいに、あたしは身動きもせずに憲次に全神経を奪われてしまう。
「千佳…お前が好きなんだよ」
逸らす事を許さない真っ直ぐな双眸は、見た事もない色をしている。
それは光の加減なのか、憲次の熱い想いのせいなのか、見分けが付かないけれど。
そこに嘘がないのだけは信じられるし、憲次とのキスは全然嫌じゃなかった。
これまでの長い友人関係の中で、人として考えれば、誰よりも憲次の事は大好きだったから。
物事には順序がある、というマイルールをくつがえしても、こんなはじまりもいいのかもしれない、とあたしはなんとなく思ってしまった。