好きなんて、言ってあげない。

いつもとは違った、あまりにも真剣な声で伊槻が質問するから、びっくりしてしまった。


「も、もちろんお願いしますって言うつもりだったわよ」


そう言うと、伊槻は悔しそうに顔を歪めた。

きっと、私に彼氏なんてできないと思ってたから悔しいんだろう。

残念だけど、伊槻の思い通りにはさせないわ。

いつも散々バカにしてきたんだから、今回は思い通りにならないことを悔しがるといいわ。

そう思って、言い返してやろうと思った瞬間。


「俺、由宇のこと好きだから。俺以外の男を彼氏にするなんて許さない」


そう言った伊槻の顔が近づいて来て、温かい感触が私の唇に伝わった。


「ん……っ!?」


私、伊槻にキスされてる……?

頭が真っ白になる、というのはまさにこの状態のこと。

気付けば伊槻は私から離れていたけど、私の唇はまだ熱を持ったままで。


「あれ、まさかファーストキスだった?」

「へっ、あっ、う、うるさいわ……!!」


いつもみたいにすぐに言い返せる余裕なんてなかった。

自分がキスをされたことががはっきりと分かってくるにつれて、速くなる胸の鼓動。

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