好きなんて、言ってあげない。
「……しつこい男は嫌いなの。分かったら、腕、離してくれる?」
睨みを利かせながらそう言うと、目の前の男は驚いたように腕をパッと離した。
目をパチクリさせている男をよそに、掴まれていた腕の部分の制服のシワを直す。
肌に痕でも残ったらどうしてくれるのよ。
「ほ、本当に本原さん……?」
「そうだけど?なにか?」
「だ、だってさっきまでとは全然違うというか……」
オロオロしながら焦りだす男を鼻で笑った瞬間。
「あ、あの、人違いでした!僕の好きな本原さんはこんな怖い人じゃないので……!!」
そう言って、男は怯えるように走り去った。
腕を強く掴まれたことと、“怖い人”と言われたことにイラつきながらも、なんとか耐えた私はすごいと思う。
それにしても、本当にバカな男。
あのバカ男が好きな“本原さん”は正真正銘、私だ。
そもそも、この学校に“本原由宇(もとはら ゆう)”なんて名前は、私一人だけなのに人違いとかあり得ない。
でも、あの男が好きになったのは“可愛くて優しい優等生”を演じてる私だものね。
人違いだと思っても、しょうがない。