好きなんて、言ってあげない。

なんだか璃音にうまくかわされた気がする。


「ほら、いつもみたいにバカにされても言い返す由宇ちゃんに戻って!」

「璃音……」

「意識しないって言うのは無理かもしれないけど、いつも通りにすれば大丈夫!伊槻くんのことは好きにならないんでしょ?」


……そうだ。

璃音に言われて、昨日決心したことを思い出した。

伊槻のことなんて絶対に好きにならないって、決心したばかりじゃない。

今からこんなうじうじ悩んでいる状態じゃ、伊槻の思うツボ。

……そんなの、私のプライドが許さない。

伊槻なんて、今まで私に惚れてきた男の中でもちょっと生意気な奴だって思えばいい。

ファーストキスを奪われたんじゃない。

私が貴重なファーストキスをあげてやったんだ。

そうやって自分に言い聞かせたら、ちょっと落ち着いた気がする。


「璃音、ありがとう。明日から元の私に戻るから。伊槻にも、今まで通り普通に接するわ」

「いつもの由宇ちゃんに戻ってよかった。頑張ってね」


私みたいなモテる女が、ひとりの男に振り回されるなんてありえないんだから。

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