好きなんて、言ってあげない。

そして、放心状態の男をその場に残したまま、私の手を引いてどこかへ向かおうとする。

伊槻が私の手をぎゅっと握ってるから、解こうにも解けない。


「ちょっと、伊槻!どこ行くのよ!まだ告白の返事してない!」

「うるさい。黙ってついてこい」


意味分かんない。

お昼には、私に彼氏ができないことを馬鹿にするし。

告白に対する返事を返そうとしたときにいきなり現れて、こうやって私をどこかへ連れて行こうとするし。


「伊槻の考えてることが、全く理解できないんだけど。どういうこと、これ?」


そんな私の言葉も無視して、歩き続ける伊槻。

放課後の校舎にはあまり生徒がおらず、誰かに助けを求めることも難しそう。

握られてる手は解けそうもないし、諦めて伊槻についていくしかなさそうだ。


「……ここ、入っちゃだめなんじゃないの?」

「今は、俺の前では、“優等生”の由宇じゃないだろ?」


連れてこられたのは、先生たちから入らないように言われている空き教室。

入らないようにって言ってる割には、鍵がかかってないのが謎だけど。
< 9 / 25 >

この作品をシェア

pagetop