千年の時空を越えて
数日後・・・。
わしは、いつものように、軍議を抜けていた。
庭を覗くと、また、人影が、屋根に登る。
わしは、笹木を捲いた。
そして、人影に近付く。
『ここから見る夜空、大好き。早く、夜にならないかな~。』
そんな声が、聞こえた。
わしも、そやつがいるところに行ってみたくなった。
慶喜「おい。そこの者!わしをそこに連れていけ!」
シーーーン・・・。
聞こえておらぬのか?
何か、上におる奴に知らせる物はないか・・・?
目に入った、小石を、上に投げた。
『鳥?』
一瞬、空気がピリッとするも、すぐに穏やかになる。
もう一度・・・。
小石を投げた。
すると、男が屋根より、首を出した。
お!気付いた。
慶喜「そこへわしを案内しろ。」
「ヤダ。ここは、私のお気に入りですから。」
そう言うと、男は、また首を引っ込めてしまった。
それならば、もう一度・・・。
また、石を投げた。
雪「何だよっ!」
男は苛ついたように、わしを睨む。
こやつ・・・わしを知らぬのか・・・。
慶喜「ここは、わしの城・・・。お前が案内するのは当然であろう?」
「はぁ?わしの城?」
やはり、知らぬようだ。
慶喜「あぁ。」
「冗談よしてよ。この城の主様は今、つまらない何かの話し合いをしてるの!そんな嘘吐いたら、首落とされるよ?」
慶喜「そのつまらない話し合いを抜けてきたのだ。」
「え・・・?」
すると、男は、わしを、まじまじと見つめて、青ざめた。
やっと、気付いたか・・・。
慶喜「おい!そこの者!聞いておるかっ!早よう・・・。あっ!」
そっちに連れていけと言おうとすると、笹木が、わしがいなくなった事に、気付いて、慌てて、こちらに来ていた。
マズい!見つかるっ・・・。
そう思うと、屋根の男が、バサッと降りてきて、わしを抱きかかえた。
少し、重そうに、わしを抱き上げて、
「しっかり掴まってて下さいね?慶喜様?」
男は、壁を伝い、屋根に登った。
下ろされて、周りを見渡す。
慶喜「おぉ!なんと、いい眺めじゃ!お主、名をなんと申す?」
直感だが、間者では、なさそうだ。
雪「申し遅れすみませんでした。私は、新選組で、組長をされてる方達の小姓をしています。乾 雪之助と申します。」
慶喜「新選組か・・・。戦いが好きな奴らだな・・・。」
雪「ふふっ。そうですね・・・。」
慶喜「新選組か・・・。お前は、何故、ここにいた?非番とやらか?」
雪「う゛・・・。まぁ、そんな所です。」
慶喜「わしと同じか?」
雪「・・・はい。」
慶喜「お前は、息抜きに良い場所を知っているのだな・・・。」
こんな、場所なら、毎日でも来たくなる・・・。
わしは、思い切って、頼んでみることにした。
慶喜「のぉ、乾・・・。わしをここから連れ去ってくれぬか・・・。さっきも、わしをここに連れてきた。頼む・・・。」
こやつなら、わしを、この苦しみから逃がしてくれるかもしれない。
雪「では・・・。今宵、私のとびきりの場所へご案内致します。って・・・ダメですよね・・・。大奥だよね?確か・・・。」
おなごは、人並みに好きだが、今は、どうでもいい。
慶喜「いや!今宵、約束じゃ!お主、わしの寝床まで迎えに来るのじゃ!」
雪「えぇ!?『抜けてくるよ』とかじゃないんですか?」
慶喜「そんなの無理に決まってるではないか!よいな!お前が迎えに来るのだぞ!でないと、ここで、油を売ってたこと、近藤に言いつけてやるぞ!」
雪「なっ!そんな事したら、土方さんに、めちゃくちゃ怒られるじゃない!わ、私だって、もし、私の事言ったら、あなたを探してる奴に、あなたを突き出しますからっ!」
慶喜「なにをぉ!お主!将軍に向かって!」
雪「何が、将軍だっ!今は、私がいなければ、ここから降りれない、ただの男だろっ!って・・・あ・・・。またやっちゃった・・・。」
こんな、口を聞く奴は初めてだ・・・。
それに確かに、そうだ・・・。
今、わしは、乾がいないと何も出来ないただの男・・・。
こやつ、面白い・・・。
慶喜「ただの男・・・。確かに、そうじゃ。初めて、そんな事を言われた。ハハハッ。愉快。愉快。お前、面白いのぉ!ここにいる間、わしの小姓をしろ!よいな!」
乾「えぇ!?既に、命令だし・・・。」
それから、しばらく、会話を交わした。
「慶喜様!・・・慶喜様ー!」
乾「呼ばれてますよ?」
慶喜「あぁ。」
乾「出て行ってあげないと、あの人、罰を受けるんじゃありませんか?」
慶喜「だろうなぁ。そろそろ行くか・・・。乾・・・。今宵の約束、忘れるでないぞ!」
乾「ハイハイ。」
乾は、苦笑いをして、わしを、抱き上げて、屋根を飛び降りた。
今宵、あやつはどんな所に連れて行ってくれるのか楽しみで、胸が高鳴った。