千年の時空を越えて






慶喜「なんと!星が近いのぉ!」




乾の背中から下りると、いつもより、星を近くに感じた。



まるで、自分なんか、ちっぽけなものに思えてくる。



乾「お気に召して頂けましたか?」



慶喜「あぁ!気に入ったぞ!乾・・・。少し、わしの話を聞いてくれぬか?」




乾「はい。」




慶喜「わしは・・・。形だけの将軍だ・・・。わしの声など誰も聞かん。大政奉還をして・・・。わしの世代で、徳川の時代を、終わらせてしもうた・・・。わしに付いてくる者など、誰もおらん・・・。」



なぜ、わしは、こやつに自分の気持ちを語っておるのだ?



こんな事初めてだ・・・。




この夜空のせいかも知れぬのぉ・・・。






乾「そんな事は、ありません。」




慶喜「良いのだ・・・。今、話し合っていることだって、周りの者が、どんどん決めてゆく・・・。」



乾「慶喜様のお気持ちを伝えれば良いのでは?」




慶喜「その気持ちが分からん・・・。のぉ、乾・・・。お前なら、どうする?勝は、無条件で、降伏して、城を明け渡せと言う。でも、他の者は、戦えという・・・。」




乾は、少し、考えると口を開く。





乾「勝様に一任するのです。」




慶喜「え?」



乾「勝様に一任して、この件を鎮めよとご命令すれば良いんです。」



慶喜「しかしだな、そんな事をすれば、わしへの信頼というか・・・。」




乾「大坂から逃げ帰った時点でもうないです。」




慶喜「なっ!無礼者っ!」




痛いところを突かれ、声を荒げてしまう。



雪「だって、そうでしょう!お前らは、絶対に引くなと言いつつ、あんたは、江戸に逃げたじゃないっ!そんな下の者を見捨てるような奴に、誰が付いていくのよっ!」




確かにそうだ・・・。その通り。




乾は、他の奴とは違う。




こいつは、わしのことを思い、痛いことも言ってくれる。




ほかの奴らは、気持ちを全く見せず、陰口を叩いているというのに・・・。





慶喜「確かに、そうだ。薩摩を討つ気持ちはあった。しかし、朝敵になる覚悟は無かったのだ・・・っ。」




まるで、心のつっかえを全て吐き出すように、涙が、こぼれてくる。




そんなわしに、乾は、わしの肩を抱いて、ポンポンとさすった。




わしは、乾を抱きしめて、気の済むまで、泣いた。






しばらくして・・・。







心が、だいぶ、軽くなった。




慶喜「乾よ。礼を言う。そちの言うとおりにしてみる。」





乾「はい!冷えてきたので戻りましょうか?」




慶喜「いや。もう少し、付き合え・・・。」




おなごの格好の乾を、前に座らせて、後ろから抱きしめた。





乾「あの・・・っ。」




慶喜「俺は、男には、興味が無かったが、お前だけは、こうしていたいと思った・・・。少しだけ付き合え・・・。わしの命に背くなよ?」



乾「はい・・・。」




こやつを抱いていると、落ち着く。






それに、もっと、触れたいと思ってしまう。




乾なら、男でも、おなごでもどうでもよく、触れたいと思う。




これ以上、触れていると、まぐわりたいと思ってしまう・・・。




わしは、良いが、こやつは嫌だろう。



こやつには、嫌われたくない・・・。




慶喜「もう、戻るぞ。おぶれ。」



乾は、苦笑いをして、「ハイハイ。」と言い、また、おんぶして、大奥の寝室まで送ったくれた。



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