3つ星物語
靴を履き替えず、上靴のまま、私は木々の生い茂る校舎裏へと来た。
 
紗生たちの影が見えた。私はちょっと離れた茂みに隠れ、様子を覗う。

「だから北高の子だってば。あんた泣き落として、彼の気引こうとしたでしょ」
 
陽に染まり、脱色しているだろう髪が黄色く光っている長身の女子と、髪の毛がふわふわ天然パーマのいかにも女の子って感じの可愛らしい子が、何やら紗生に詰め寄っている。
 
天パの子は涙をポロポロと流していて、ハンカチを両手で握っている。
 
彼女はひどくしゃくりあげていて、専ら紗生と話をしているのは長身の子の方だった。

「――私じゃない」
 
紗生が淡々と答える。

「あんたのとこの南生は彼氏がいるでしょう。玖生って奴は泣くような女じゃないじゃないの」
 
おいおい、何を勝手なことを言っているのだ。私だって泣くわよ、とこころのなかで思った。
 
この間だって、ミスドで、大地を前にして――。あ。話が見えてきた。

「話が見えない」
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