3つ星物語
差出人は“直哉くん”――伊津くんからだった。
 
どれどれ。南生はお風呂だ。長風呂の彼女が戻ってくるまでは時間があるだろう。

『明日は会えるかな? いつものところで16時、どうかな?』
 
これもまた南生仕様のうさぎの動く絵文字が使われたメールだった。伊津くんってこんな可愛いメールを送ることができるのか。きっと、南生を喜ばせるためなのだろう。
 
私はぺろり、と舌で唇を濡らし、南生の代わりにメールを送信した。

『解ったわ。いつものところね。待ってるわ。おやすみなさい』
 
いつものところ、とは駅の前の長方形の石が3本合わさった三角形のオブジェの前ということだろう。
 
待ってるわ。玖生が、待ってるわ。
 
私だって、伊津くんのことが好きなんだもの。たまにはお借りしてもいいじゃない?
 
私は今しがた送信したメールを消去した。念を入れて、伊津くんから来たメールもサクサク削除した。
 
明日、16時。私は、よし、と頷いて南生の携帯を机の上に戻し、ベッドの上の倒れたうさぎを起こしてやって南生の部屋を後にした。

手の中の宝石を落とさねば。
 
南生はネイルをしていない。玖生だとばれないように私は明日にそなえて、コットンに染み込ませたネイルリムーバーで爪をまっさらな状態にした。
 
悪気なんてものはなかった。こころもまっさらだった。

< 64 / 238 >

この作品をシェア

pagetop