3つ星物語
「南生ちゃん、お待たせ」
 
私の姿を確認するなり、伊津くんは小走りで私の元へと駆け寄ってきた。
 
16時の5分前。私は駅前にいた。

「伊……直哉くん。大丈夫、私も今来たとこだから」
 
私はにっこりと、しとやかに笑って見せた。
 
今日こそは伊津くんに玖生だとばれないようにしなければ。
 
私は南生。南生になりきるのだ。
 
所作も言動も、玖生とは真逆のものにしなければいけない。

「今日はどこに行こうかねぇ」
 
晴れた大空を仰いで、伊津くんはのんびりとつぶやく。
 
カラオケ! カラオケ、行こー! 玖生ならば咄嗟にそう叫んでいるところだ。
< 65 / 238 >

この作品をシェア

pagetop