Spise・Love〜私が歩いた道〜
――ピンポーン――…
静まりかえった住宅地に機械音が透き通る様に響く。
「はいはーい」
家の中からは、優しくて懐かしい、明美おばさんの声が聞こえた。
ドアが開き昔と全く変わらない、明美おばさんが顔を出した。
「どなた…?」
明美おばさんは、美優を見て目を見開いて驚いている様だった。
一瞬、やっぱりこんな所に来てはダメだったんだ。後悔が頭によぎる。だけどもう美優には、ここしか頼る場所がない。
「……美優ちゃん?」
明美おばさんは、美優を確かめる様に顔を覗き込んできた。
「…はい」
「…そんな所に立ってちゃ、寒いでしょ?早く家の中に入りなさい。」
一瞬何かの不安が掠めるかの様に、おばさんの顔が少し歪んだのが、伺えた。でも、優しく明美おばさんは、私を家に招いてくれた。
明美おばさんは、全て知って居るんだ。そう直感的に思った。来た理由を、何も聞いてこない。
少しホッとした。さっき齋藤の事は考えないと決めたばかりだし、思い出したくもない。お母さんの死も。
だけど、不思議だ。お母さんが死んで、こんなに冷静で居られている自分が。まるで、冷たくて冷酷な人間の様に思えてしまうくらい。
だけど、それは多分、予測出来ていたことだったから。覚悟は出来ていた。
心のどこかで、いつお母さんが死んでもおかしくないってことを、分かっていたんだと思う。