シオンズアイズ
たしか、馬宿はあの丘からよく見えた。

このまま行くよりは、一旦丘から様子を見た方がいいかも知れない。

……灯りがあれば、馬番がいるか確認できる。

香は丘へと足を向けた。

月は明るいが、高い塀に囲まれた街並みは至るところに闇があり、香は容易に丘の麓まで進めた。

張り詰めたものが一気に緩み、無意識に吐息がこぼれた。

その時である。

「……っ!!」

ゴツゴツとした腕に背後から抱き付かれ、香は思わず身を固くして息を飲んだ。

しまった、気取られたか!?

大きな体に抱きすくめられ、身動きがまるで取れない。
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