シオンズアイズ
香は一瞬考え、踵を相手の足に降り下ろそうと、 膝を曲げると弾みをつけた。

その瞬間、

「ピアス」

耳元で声がし、腕が解かれた。

素早く飛び退きながら振り返り、香は眼を丸くした。

豪快な感じのする笑顔と、逞しい体。

「よう」

アルゴだった。

「あれから考えて、引き返したんだ」

「なんで?」

アルゴは決まり悪そうに視線をそらし、大きな体に似合わない口調で、ゴニョゴニョと告げた。

「お前が再び丘に戻るような気がして…馬宿から馬を調達するのは、骨が折れるし…その、馬がないとリアラまでは無理だし、その、えーと」
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