シオンズアイズ
北側兵隊のリーディックは、馬宿の小窓から
馬上のシオンを見つめてニヤッと笑った。

炊事場で女に乱暴しようとしたところを逆に襲われてから、リーディックは女を抱けずにいた。

炊事場での事件をシリウスに報告されてしまったからだ。

けれどなぜか、逆にリーディックを襲った女の存在は明かされず、リーディック本人もそれが知れて職を解かれるのを恐れ、好都合とばかりに黙っていた。

当分はおとなしくしているしかなかったが、先日シリウスがアーテス帝国へと帰還したのを見届けると、ムクムクと押し殺していた欲求が頭をもたげた。

かといって、屋敷にいた炊事係の女達は皆、シリウスと共にアーテス帝国へと帰ってしまった。

ケシア郊外には逃げ遅れた黄金族人間がいた筈だが、結局戦いの最中、手際のよい敵の誘導で民達は素早く避難してしまっていた。

今このケシアには、カイルの兵達の半数がいるだけとなったのである。

……捕虜となった女もいない。

ちきしょう。
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