短編集『秋が降る』
「あぶない!」


そう叫ぶ声を聞いた私は、驚きのあまり固まった。

激しいブレーキ音に振りかえった私は、生まれて初めて人が車に撥ねられるのを見た。

弧を描いて飛んだあと、鈍い音とともにそれは道に落ちた。

一瞬の出来事なのに、まるでスローモーションのように思えた。
車から飛び出て来た人、ほかにも何人かがそれに集まる。

悲鳴や怒鳴り声。

私は、ただただそれを見ていた。

なにかしなくちゃいけないのは分かっている。

普通なら助けにいくでしょ?
でも、今日もバイトでクタクタになっていて早く帰りたい。

別に門限があるわけじゃないし、特別遅い時間でもない。
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