短編集『秋が降る』
やっぱり戻ろうか、そう思った時、遠くからサイレンの音が聞こえた。

「よかった」
思わず言葉にでた。

救急車が来たならもう安心。

見も知らぬ人の無事を一瞬お祈りして、再び歩き出す。

しばらく歩いていると、ポケットの携帯が震えた。
バイトの前にマナーモードにしたままだった。

着信を見ると、お母さんの名前。

「めずらしい」

普段はメールばっかなのに。

・・・なにか買ってこい、とか言われたらめんどくさいな。

そう思いながら、私の頭には拓斗の顔が浮かんだ。
私の恋人。

会いたくなった。

お母さんの着信をスルーすると、拓斗に電話をしてみる。

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