嘘つきなあなたからの恋文。


蒼は眉を下げ、哀しそうに私を見つめる。


「蒼…?」


「本当?コタくんがもし生きてたら今よりもっと幸せになってたかもしれないよ?

父さんと一緒にいるよりもっともっと幸せになれてたかも…いや、なってた!」


「お前…それ本人の目の前で言う?」


「こういう空気読めない所湊くんそっくりよね」



冷めた目で湊くんを見つめると湊くんは小さな声で心外だと呟いた。


本人に自覚ない所も息子にちゃんと遺伝してますよ。

口角が緩む。


「ねぇ、蒼。母さん一切嘘なんてついてないわよ」


真実なんだよ。


「だって私はもう【コタくんのいない世界】ですごい幸せを手に入れてしまった。

だからもう【コタくんがいる世界】の幸せは想像できないの」



私は今とても幸せだ。


愛しい我が子の中に大好きな人の似ている所を見つけられたことだけで幸せを感じてしまう程に

私は今を、愛しい時間を過ごしている。



「きっとコタくんが生きていると前提があっても私はこの人生を選ぶよ。

湊くんと結婚して、蒼を産みたいよ。

そう思うよ」



だからね、蒼。


「不安にならないで」


「母さん…」


久しぶりに我が子をそっと抱きしめた。


「大きくなったね、蒼」


「…“もう”母さんが初恋をした時の15歳だからね」


「ふふ、そうだね。

“まだ”15歳か…可愛いな」


「“まだ”じゃない、“もう”だから!

それも思春期に可愛いなんて禁句だからっ」


「15は“まだ”で十分よ!

よし、ご飯食べよう」



ねぇ、コタくん。


「蒼〜、父さんにも抱きしめさせてくれ〜」


「絶対嫌だ!母さん早くご飯!俺腹減った」


「はいはい、もう下準備はしてたしあとちょっと待ってなさい」


「思春期の息子は冷たいね〜。母さん、ビールおかわり」


「はいはい」


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