嘘つきなあなたからの恋文。


うな垂れた状態でテーブルを拭き終わると布巾を洗う。

そんな私を見る視線がテーブルの方から強い視線を感じ、つい文句が出る。



「なによ…見てこないでよ」


「コタくんって誰?」


「また?しつこいわよ」


「だって気になるじゃん。誰?不倫相手?」


「あんた怒るわよ」


冗談でもそんなこと言われるとは親としてどうなんだろうか…。


「じゃあ誰なんだよ」


「……初恋相手よ」



洗った布巾を置くと、今度はコーヒーを作る。



「は?初恋?母さんの?」


「…顔笑ってるわよ」


「笑ってねぇよ。

あ、俺にも頂戴」


そう言いつつ、我慢しようと反対に顔の筋肉がピクピクしていてバレバレだ。



「笑いたきゃ素直に笑いなさいよ」


「いや…だって…初恋って。40のババアが言うなよな」


蒼は我慢するのをやめたのか体を震わせてまで笑う。


「40のババアでも初恋する年があったのよ」



本当失礼な息子だ。


「母さんの初恋っていつ?」


「あんたと一緒、15歳の時よ」



蒼の問いに応えたと同時に、蒼もあの頃のあたしと同じ年になったんだと改めて実感する。



「ふーん…ねぇ、コタくんとの話し聞かせてよ」



肘をついてニヤニヤしてあたしを見る蒼の表情は全くと言っていいほど旦那に似ている。



「…嫌よ」


本当、この子は何を言い出すやら…。

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