嘘つきなあなたからの恋文。
「とうとうお母さんは期限が迫って自分のレベルより少し上の高校に志望したわ」
「春に…その高校にコタくんはいたの?」
「いなかったわ」
湯が沸く。
珈琲は止めて紅茶を飲もうか。
「入学式の日、クラス発表の掲示を隈なく探した」
最後のクラスを見る頃には涙で上手く見れなくて莉里ちゃんに見てもらった。
「でも彼の名前は無かった」
紅茶のティーパックをポットに入れ湯を注ぐ。
「あんたも紅茶飲む?」
新しいカップを蒼に背を向け棚から取り出す。
「いや、俺はいいよ。
それよりコタくんはどこの高校に行ったの?」
蒼の問いにカップを取り出す手が止まる。
「母さん…?」
「コタくんは行かなかった」
「え?」
「どこの高校にも…行かなかった。
いや、語弊ね。
どこの高校にも行けなかったのよ」
【小池さん】
そう言って笑うコタくんを思い出して涙が溢れた。
「コタくんは志望校を教えてくれなかったんじゃない。
……教える志望校がなかったのよ」