私の師匠は沖田総司です【下】
「へぇ……。君、何者なの?」
一般人とは思えない動きをした岡田さんに、組長の興味津々な目が向けられる。
これは非常にマズイ展開。
でも、岡田さんに慌てた様子は微塵もない。
いつものように、にこやかな顔をしている。
「ウチは唯の町娘なんよ。ちょっと剣術の心得があるだけや」
「ちょっと剣術の心得があるだけで、こんなことができるんだ。すごいね。
実は忍びの一族とか、人斬りなんじゃないの?」
「唯の町娘や」
「それに、君の顔。どこかで見たことがあるんだよね」
組長、鋭い……。
組長は一度、角屋で太夫・千代菊に変装した岡田さんと、会っていますからね。
岡田さんの正体が、組長にバレないかハラハラしましたが、無用な心配でした。
それ以降、岡田さんは組長に何を言われても「唯の町娘」だと言い張り続けたのです。
次第に組長も諦めムードに突入し、抜こうとしていた刀から手を離しました。
「もう、いいや。僕たち、そんなに暇じゃないからさ。行こう、天宮さん」
組長が私の手を取ると、壁のように人が密集した場所へ向かって、強引に歩き出した。