私の師匠は沖田総司です【下】
龍馬さん、見知らぬ人に話し掛けられたら『いかのおすし』です!
雨が降りそうだと思った。
なぜなら、透き通った青空の西側にどんよりとした灰色の雲が浮いているから。
そして、空気も微かに湿った臭いがする。
まもなく雨が降るのは間違いないだろう。
「どうしようかな……」
窓際で頬杖をつきながら、外を眺めていた私はポツリと呟いた。
何を迷っているのかというと、外出している龍馬さんに傘を届けるか届けないかについてです。
龍馬さんが出かけた場所は聞いたからわかっている。
そう遠くないし、迷子にもならない……と思う。
でも、龍馬さんからあまり外に出るなと言われているのです。
たまに発作のような激しい咳がおきて、呼吸ができなくなりますからね。そして一歩も歩けなくなります。たぶん、それを心配しているんだと思います。
だから傘を届けるか届けないか迷っているのです。
「ん゛ー……」
なかなか答えが出ないまま、空が微かに暗くなってきました。町の人たちも雨の気配を感じてか、歩く速度が速くなっている。
「やっぱり、届けよう」
龍馬さんが雨に濡れて風邪をひいたら大変だ。
それに、いつもお世話になっているから傘を届けるぐらいのことはしたい。
あまり寒くはないけど、一応羽織を羽織ると、私は傘を両腕で抱えて外に出た。