私の師匠は沖田総司です【下】
「よかった。今から一人でも新選組に乗り込もうと思ってたんだ」
「やっぱり……。一人で乗り込もうなんて無茶ですよ。組長たちに捕まっちゃいます」
「組長……?」
龍馬さんが身体を離し、私の顔を覗き見た。
私は微笑むと
「記憶が戻りました」
と、言った。
「そうか……記憶が」
複雑な表情で龍馬さんは視線を逸らす。
「とりあえず、中に入れよ」
龍馬さんの大きな手が優しく私の手を引く。
私は繋がれた手を見た後、首を横に振った。
「いいえ。すぐに……新選組の屯所に帰ります」
「……」
私の手を握る手に力が込められ、針に刺されたように胸が痛んだ。
「今日は、ずっとお借りしていた物を返しにきました」
手を離すと、私の手の代わりに懐中時計を握らせた。
龍馬さんの手の中で、時間を刻む音が雨の音と一緒に絶え間なく聞こえてくる。