私の師匠は沖田総司です【下】
師匠、人斬り紅天女が現れました

お正月が過ぎ、いつもの京の町の雰囲気に変わった頃。

寒月のおぼろげな光が暗い夜空と町をと照らす時刻に、新選組の1番隊は提灯を片手に夜の巡察を行っていました。

もうすぐ巡察が終わる。

今日も無事に終わりそうだと思っていると、横から頬をムニッと突っつかれた。

「天宮さん、またボーっとしてる」

「組長……。巡察中に頬っぺたを突っつかないでください」

「ボーっとしてる天宮さんが悪い。それに、僕は1番隊の組長として隊士を注意しただけだし」

浅葱色の羽織に袖を通し、鉢金を額に巻いた組長がニシシッと悪い笑みを浮かべる。

その顔は注意する上司というより、イタズラが成功した子供のようです。

「今、『人斬り紅天女』って人斬りが町をうろついているんだよ。凄腕の人斬りらしいし、一瞬の隙が命とりになるよ」

「……そうですね」

人斬り紅天女は、突然京の町に現れた幕府側の人間をだけを狙う、女性の人斬りのことです。

つい最近現れた人斬りですが、その名はすでに町全体に広まっていました。

なぜその名の広まりが速いかというと、人斬り紅天女は剣の腕をさることながら、その容姿に関係します。

数少ない目撃者の証言として、その人斬りは艶やかな長い黒髪に、端整な顔立ちをしているそうです。

何よりも、高貴な雰囲気を纏う姿は天女のようだったらしいです。
< 26 / 267 >

この作品をシェア

pagetop