私の師匠は沖田総司です【下】
師匠、人斬り紅天女が現れました
お正月が過ぎ、いつもの京の町の雰囲気に変わった頃。
寒月のおぼろげな光が暗い夜空と町をと照らす時刻に、新選組の1番隊は提灯を片手に夜の巡察を行っていました。
もうすぐ巡察が終わる。
今日も無事に終わりそうだと思っていると、横から頬をムニッと突っつかれた。
「天宮さん、またボーっとしてる」
「組長……。巡察中に頬っぺたを突っつかないでください」
「ボーっとしてる天宮さんが悪い。それに、僕は1番隊の組長として隊士を注意しただけだし」
浅葱色の羽織に袖を通し、鉢金を額に巻いた組長がニシシッと悪い笑みを浮かべる。
その顔は注意する上司というより、イタズラが成功した子供のようです。
「今、『人斬り紅天女』って人斬りが町をうろついているんだよ。凄腕の人斬りらしいし、一瞬の隙が命とりになるよ」
「……そうですね」
人斬り紅天女は、突然京の町に現れた幕府側の人間をだけを狙う、女性の人斬りのことです。
つい最近現れた人斬りですが、その名はすでに町全体に広まっていました。
なぜその名の広まりが速いかというと、人斬り紅天女は剣の腕をさることながら、その容姿に関係します。
数少ない目撃者の証言として、その人斬りは艶やかな長い黒髪に、端整な顔立ちをしているそうです。
何よりも、高貴な雰囲気を纏う姿は天女のようだったらしいです。