私の師匠は沖田総司です【下】
行き場のない怒りを一息吐くことで抑え込む。

そしてもう一度、艶子さんを睨みつけた。

「どうして、山南さんを襲ったんですか。山南さんは何もしていません」

「総長さんはなぁ、見せしめになってもらったんよ」

「見せしめ……?」

「そう、アンタのな」

「なっ……」

驚きのあまり息を呑んだ。そして、全身から血の気が引く。

そんな私を見て、艶子さんは面白そうにクスクスと笑った。

「もし、ウチのことを話そうとしたら、アンタが大好きなお仲間は総長さんと同じ運命を辿る……。その見せしめや。仲間の命が掛かってたら簡単に話せへんやろ」

艶子さんの手が私の頬に伸びてゆっくりと撫でた。

「賢い蒼蝶さんなら、もう分かるやろ。今、新選組の命を握ってんのはアンタや。これから先、アンタがウチをどう敵に回すかで新選組の運命が変わる」

述べられた言葉に、全身がカタカタと震えた。

艶子さんの目は本気だ……。この人なら新選組を潰しかねない。

彼女は非力で自分では何もできないように見えるけど、例えば今、朝食に毒を盛ったらどうだろう。

何も知らずに料理を食べただけで新選組は危機に陥る。

他にも、新選組の人たちを窮地に陥れる方法はいくらでもある。

ちょっと……、ほんのちょっと手を加えるだけでいいんだ。
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