私の師匠は沖田総司です【下】
「……帰りたくなさそうだな」
微かに頷くと、龍馬さんは苛立ったように自分の髪を撫でました。
「何やってんだよ、新選組の奴ら……。ほら、蒼蝶。こっちにこいよ」
畳の上に座った龍馬さんに手を引かれ、隣に腰を下ろす。
するとすぐに視界がグルンと反転して、畳の上に横になった。
背中に感じる畳の固い感触。
そしてすぐ側で、私と同じように横になっている龍馬さんの温もりを感じる。
「龍馬さん……」
「しばらくここで休んでいけよ」
「……はい」
羽織を全身に被り体を寄せると、龍馬さんは私を抱きしめ、頭を優しく撫でてくれる。
まるで子供を安心させるような優しい手つき。
徐々に瞼が重くなってくる。
でも、ここで寝るわけにはいかない。今、眠ってしまったらいつ目を覚ますか分からない。
それだけの疲労が体に蓄積されているのを感じた。
鈍くなってきた頭を動かし、私は懸命に口を動かした。
「長州藩邸から、寺田屋に移ったんですね」
「ああ。今まで俺一人だったけど、以蔵まで世話になるわけにはいかねえからな」
「ふふっ、龍馬さんは本当に交渉とか上手ですよね。岡田さんが言っていましたよ。龍馬さんは昔から刀よりも交渉術の方が凄かったって。
そういう所は武士っていうよりも、商人みたいだと聞きました。確かに、龍馬さんは商売をしている方が似合っていそうです」