私の師匠は沖田総司です【下】
恋というのは本当に厄介なものだと感じました。
何よりも大切な師匠との約束を忘れてしまいそうになるなんて……。
だからと言って、龍馬さんを突き放すこともできない私。
……本当、自分がいやになる。
やるべきことが分かっていながら、龍馬さんを手放せない自分が。
「なあ、蒼蝶」
「はい?」
龍馬さんは体を離すと、胡坐をかいて座りました。私もつられて起き上がり、羽織を肩に掛けたまま向かい合うように座る。
どこか私を見る龍馬さんの目は戸惑っているように見えました。
「勝海舟先生を知ってるか?」
「勝海舟先生ですか?」
勝海舟って、確か軍艦の製造や購入操、錬技術者の育成などを取り締まる軍艦奉行の役職に就いていた人物だ。
「はい、知っています」
「俺さ、今、その人に弟子入りしてんだ。それで海軍学校を作ろうって話になってな。……しばらくこの町を離れることになる」
予期せぬ言葉に思わず息をつめた。
よほど、私が悲しい顔をしていたんだと思う。
龍馬さんはますます困ったような顔になりました。