泡沫の少女
翌日、やることもなくごろごろしていると、ばあちゃんがやってきた。
「春、隣の山本さんちにお萩を届けてくれるかい?」
「隣?」
隣は永遠畑だった気がするのだが…。
「そうさねぇ…一キロくらい先のとこだべ。」
「一キロォ!?」
それ隣じゃねーし!!
「よろしくねぇ。」
「え!?は!?ば、ばばば、ばあちゃん!?」
ばあちゃんはひらひらと手を振って台所に引っ込む。
うわぁ、まじか。
春樹は青ざめた。
…と、言いつつも行ってしまうのがこの黒部春樹という少年であった。
結局、律儀に山本さんにお萩を届け、しかもお返しの鮎までもらってきてしまった。
あぜ道には秋の風が吹き、ススキを揺らす。
紅葉が舞い落ちる。
空を仰げば、緋色が舞っている。
まるで降り注ぐように、はらりはらひらと落ちてくる。
ススキ野に、風が吹いた。
ザーッとススキが擦れる。
ふと、視線を前に戻すと、黒いマントを羽織り、目が隠れてしまうくらい目深にフードを被った人がいた。
足の形や、立ち片、指先の様子から女の人だろうか?
華奢な肩幅が印象的だった。
体格的に春樹と同い年ぐらいだろうか
相手の唇がハッとしたように開かれる。
慌てて身を翻して去っていく。
ポトッと音がして、赤い林檎が落ちた。
慌ててそれを拾い、春樹は駆け出す。
「あの!!そこの人ーー!落ちましたよー!!」
少女は立ち止まらないどころか、振り向きもしない。
「そこの黒マント!!とーまーれー!!落としものっつってんだろーがぁ!!」
少女の足は止まらない。
完全無視、だ。
ブチッ!
あ、なんかキレた。
変なところで冷静になりながら、春樹は全力疾走した。
こうなったら、意地でも渡してやる!
男の体力なめんなよ!?
「待てこのやろーーー!!」
少女がビクッとして一瞬振り向く。
(………え?)
その髪が白く、瞳が赤かった気がした。
が、とりあえず走る。
そして…。
「おい、待てよ!!こっちはあんたの落としもの届けに来たんだよ!!」
そう言って少女の手首をつかむ。
その儚げな姿に息をのむ。
綺麗、だ。
と。
「いやっ!!触らないで!!」
ものすごい勢いで振り払われた。
火事場の馬鹿力、というにふさわしいそれだったが、男の春樹の力に勝てるわけもなかった。
手首をつかみ直す。
「てめっ…!!」
少女が顔を上げる。
「お願いっ!早く放して…!!」
その肌は抜けるように白く、髪にはほとんど色がなく、クリーム色っぽくなっていた。
そして、その目は赤を通り越して桃色だった。
「なっ……!?」
思わず手を離す。
「…ごめんなさい。けど、怖がられちゃうと思ったの。林檎、ありがとう。」
少女がぺこりと頭を下げる。
そして踵を返した。
「あっ!待てよ!!」
春樹はまた手をつかんだ。
「さ、触らないで!!消えちゃう!!」
「は?消える?」
少女はハッとしたように口を開き、そして駆けていった。
春樹はただ1人、そこに立っていた。
「春、隣の山本さんちにお萩を届けてくれるかい?」
「隣?」
隣は永遠畑だった気がするのだが…。
「そうさねぇ…一キロくらい先のとこだべ。」
「一キロォ!?」
それ隣じゃねーし!!
「よろしくねぇ。」
「え!?は!?ば、ばばば、ばあちゃん!?」
ばあちゃんはひらひらと手を振って台所に引っ込む。
うわぁ、まじか。
春樹は青ざめた。
…と、言いつつも行ってしまうのがこの黒部春樹という少年であった。
結局、律儀に山本さんにお萩を届け、しかもお返しの鮎までもらってきてしまった。
あぜ道には秋の風が吹き、ススキを揺らす。
紅葉が舞い落ちる。
空を仰げば、緋色が舞っている。
まるで降り注ぐように、はらりはらひらと落ちてくる。
ススキ野に、風が吹いた。
ザーッとススキが擦れる。
ふと、視線を前に戻すと、黒いマントを羽織り、目が隠れてしまうくらい目深にフードを被った人がいた。
足の形や、立ち片、指先の様子から女の人だろうか?
華奢な肩幅が印象的だった。
体格的に春樹と同い年ぐらいだろうか
相手の唇がハッとしたように開かれる。
慌てて身を翻して去っていく。
ポトッと音がして、赤い林檎が落ちた。
慌ててそれを拾い、春樹は駆け出す。
「あの!!そこの人ーー!落ちましたよー!!」
少女は立ち止まらないどころか、振り向きもしない。
「そこの黒マント!!とーまーれー!!落としものっつってんだろーがぁ!!」
少女の足は止まらない。
完全無視、だ。
ブチッ!
あ、なんかキレた。
変なところで冷静になりながら、春樹は全力疾走した。
こうなったら、意地でも渡してやる!
男の体力なめんなよ!?
「待てこのやろーーー!!」
少女がビクッとして一瞬振り向く。
(………え?)
その髪が白く、瞳が赤かった気がした。
が、とりあえず走る。
そして…。
「おい、待てよ!!こっちはあんたの落としもの届けに来たんだよ!!」
そう言って少女の手首をつかむ。
その儚げな姿に息をのむ。
綺麗、だ。
と。
「いやっ!!触らないで!!」
ものすごい勢いで振り払われた。
火事場の馬鹿力、というにふさわしいそれだったが、男の春樹の力に勝てるわけもなかった。
手首をつかみ直す。
「てめっ…!!」
少女が顔を上げる。
「お願いっ!早く放して…!!」
その肌は抜けるように白く、髪にはほとんど色がなく、クリーム色っぽくなっていた。
そして、その目は赤を通り越して桃色だった。
「なっ……!?」
思わず手を離す。
「…ごめんなさい。けど、怖がられちゃうと思ったの。林檎、ありがとう。」
少女がぺこりと頭を下げる。
そして踵を返した。
「あっ!待てよ!!」
春樹はまた手をつかんだ。
「さ、触らないで!!消えちゃう!!」
「は?消える?」
少女はハッとしたように口を開き、そして駆けていった。
春樹はただ1人、そこに立っていた。