ブルーライトメモリーズ
「ペロちゃん?」
ペロちゃんって、あのペロちゃん?
昔からあるミルクキャンディーのパッケージで、舌をペロッと出しておちゃめな顔をして微笑んでいる、あのペロちゃん?
……ぜんっぜん嬉しくない。
「なにそれ、馬鹿にしてるの?」
「してねーよ、ただ似てるって話だろ、ほら前髪とか」
「ぜんっぜん嬉しくないんだけど」
「いや、お前あのキャンディー旨いって言ってたろ」
「確かにママの味は美味しいけど、これとは別問題だわ !」
あーもうめんどくせー!
そもそも青木が最初に言ったんじゃん!
……今考えれば、本当にくだらない言い争いだ。
そんな言葉をお互いにぶつけている間に、私たちはついついヒートアップしていたようだった。
気がついた時にはクラス中が私たちに注目していて、夫婦喧嘩ならよそでやれ、とからかわれた。
そしてそんな様子を最も冷静な様子で見ていた担任に、ホームルームの進行を妨げた罰としてここの教室の掃除を命じられたのだった。
窓から見える空がオレンジ色に染まっている。
大きな窓はその光を教室に取り込み、私たちを包み込んでいる。
壁には伸びた影。それを見つめながら、短くなった髪に触れる。
"ショートカットの女の子が好き"
青木がそんなことを言ったから、意を決して切った髪。
少しでも彼の好きなタイプに近付きたくて。少しでも可愛いって思われたくて。
……だけど似合ってなかったのかな。
だってペロちゃんだよ?青木が好きだっていう、あの清純派女優さんとは程遠い。
いや、たしかに可愛らしいキャラクターだけど、やっぱり私は。
ちらりと彼を盗み見る。
無言で備品を拭いている彼は真剣そのものだ。
と思ったけどそれはどうやら違うようだ。その証拠に、彼の視線が時々グラウンドの方へと注がれる。
何を見ているのだろう、と暫く考えて、気がついた。
……彼はグラウンドを見ている。