ブルーライトメモリーズ
なんだろう、と思考をぐるぐるの回転させて、一つの答えにたどり着いた。
あぁ、こんなことに気がつかないなんて、私は青木に恋する者として失格だ。
「青木、」
そう広い背中に呼び掛ける。すると彼がこちらを振り返った。
「んー?」
「私一人で大丈夫だから、もういいよ」
久し振りにこちらへ顔を向けた彼は、きょとんとした不思議そうな表情を浮かべて私を見ている。
それもそうだ。
いつも文句ばかりの私がいきなりこんなことを言い出すなんて、きっと信じられないのだろう。
「いや、まだ時間かかるだろ」
「いいよ、これくらい」
「急に何?俺なんかした?」
なんとなく苛立ったように見える彼は坊主頭をガシガシと乱暴に掻くと、手に持っていた雑巾を放り投げてこちらへと足を向けた。
違う、と私が小さく呟いたころには、青木が目の前にいた。
普通の机より少しだけ高い実験台に腰をかけて足を放り出す。背の高い彼を夕日がキラキラと照らす。
「じゃあ、何」
「だって、」
「だって?」
「……今週試合なんでしょう?だったらこんなところで油売ってる場合じゃないよ、キャプテンなんだし、青木いなきゃみんな困るでしょ?」
私は大丈夫だから、と言った声が、何故か震えた。
さっき青木が見つめていたグラウンド。そこには青木の仲間である野球部のメンバーが泥だらけになって練習をしている。
この窓から、青木はそれを見ていたのだ。
今週ある試合は、どうしても負けたくないと言っていた。
その試合がどれくらい重要なものかは私にはわからないけれど、そう語った彼の顔を思い出したのだ。
……こんなことなら早く気がつけばよかった。
青木は何よりも部活を大切にしていたし、練習だって毎日遅くまで頑張っている。なのに、私のくだらない罰に付き合わせてしまって。
大きな後悔が襲い、思わず顔を俯かせる。
「ごめんね、もっと早く気がつけばよかった」
私の声は、オレンジに包まれる教室に響いた。