夫婦ですが何か?Ⅱ
もう無い姿を目の前に引きだすように、何もない空間を目を細めて見つめていれば。
「・・・・もし・・・俺が見たのが犯人であるなら・・・、帽子は被っていなかったと。・・・うん、確か・・・フードを、」
「・・・じゃあ・・・パーカーか何かだったのでしょうか?・・・でも・・生地は割と薄手な・・・」
「薄手?」
「・・・・・犯人の腕に噛みつきました。結構強く噛んで、それに怯んで相手が逃げたんです」
「・・・逃げた・・・か、」
「・・・何か・・気になりますか?」
不意に視線を夜空に浮かばせ考え込むような鈍い声を響かせた彼が、その表情も眉根を寄せて目を細める。
何か今の話で不自然な点でもあったのだろうか?
自分には理解できないその答えを待つように横顔を見つめ上げていると。
「・・・・計画的でなく・・・突発的だったのかもしれないですね」
「えっ?」
「いや・・・例えば、あなたを元々狙っているストーカーの様な存在であるなら、こんな風に行動するならもっと用意周到だと思うんですよ・・・」
「・・・・」
「抵抗されるのだって想定して、それを制するものとして凶器を所持しているとか。・・・顔を見られたかもしれない危険を残して逃げだした段階で・・・無計画を強く感じさせますよね」
淡々と持論を語ってこちらを見た彼が、僅かに表情を焦らせてから複雑な笑みを口に浮かべ。
「すみません。・・・仮定の話で無駄に怯えさせてしまいましたね」
「・・・っ・・いえ、」
怯えましたけど・・・。
さらりと語られた内容に『凶器』という鋭利な言葉が混ざりこんで。
耳にした瞬間に納得して、次にはそれが無計画であった事が助けだと体が震えて鳥肌が立った。
もしあれが計画的であったなら、私が噛みついた事に激情して所持した凶器を振りかざされてもおかしくなかったのだ。
そう気がついてしまえば今こうして振り返って話していることの奇跡を感じて思わず確かめるように腕を摩る。
それを悟ったようににっこりと微笑むと向きをマンションに向け歩きだした姿に自分の足も向けていく。
ああ、本当に・・・。
疑ってはいたけれどこの人は良い人なのかもしれない。
今も私の心中を優先させて、読んでこの会話を切り上げた。
慰める言葉を吐くでもなく、ただ『帰りましょう』と言うように歩きだして。