夫婦ですが何か?Ⅱ
隣に並ぶでもなく一歩後ろ。
でも多分私の歩調に合わせてくれている男の後ろをついてあるいて、ようやく住み慣れたマンションの敷地を踏み込み。
エントランスのガラス戸をくぐり抜け心底安堵した瞬間に、
「あっ!!」
「どうしました?」
不意に気がついた違和感に両手を持ち上げ呆然とする。
自分の身軽すぎる現状に眉尻を下げるとゆっくり顔を上げた。
「・・・・買った物・・・落としてきました」
「ああ・・・、何か急ぎの物でしたか?」
「いえ・・・単なるロック氷だったんですけどね・・・」
落としたところで被害はさほどでもない。
それでも何の為の外出だったのかと自分に呆れて溜め息をつけば、その様子が可笑しかったらしい男がクスリと笑って助け舟。
「まだ・・・慈善事業の借りがありました」
「・・・・はっ?」
「ロック氷なら・・・冷凍庫にストックあるので一袋どうぞ」
「はっ?いえ・・・今程充分に借りは返していただいたので!!逆に申し訳ないです!」
「たかが氷です。それに・・・手ぶらで帰っては言い訳が立たないのでは?」
にっこりと弾かれた言葉はもっともだ。
買い物に出たのに手ぶらの帰宅は不信感ありだ。
自分でも納得すると彼の提案に乗るのが得策かと、せめてお金を払おうと財布をポケットから出そうとした瞬間。
「あ、お金は結構ですよ」
「私が落ち着かないです」
「じゃあ、お金以外の物でも、」
「何がご希望でしょうか?」
「あなたからの口づけとか?」
「・・・・・500円でいいですか?」
「ははっ、冗談です」
お金で解決しようと財布をとりだせば、すかさず手を添えられ軽く押し戻された。
必要ないとその手で示すと再び背中を向けて歩きだす姿に急いでついて歩く。
「あの、でも何かお返ししないと気が済まなくて、」
「なら、今度また何かおすそ分けしてください。あの煮物・・・美味しかったし、」
「・・・・了解いたしました。明日にでもすぐに、」
「ははっ、よっぽど誰かに借りを作るのが嫌なんですね」
嫌というか・・・、借りた物は忘れないうちに返したいだけなんですが。
引き延ばしていつまでも気にかけたまま過ごせるほど無精者でもなくて、彼は笑ったけれど本気で翌日には作ろうと思っていた。